技術や仕組み

【専門家監修】 生成AIの倫理的課題とガードレール

【専門家監修】 生成AIの倫理的課題とガードレール
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中村 丈洋

形式手法および高信頼ソフトウェアの研究に従事、博士号(工学博士)を取得。2013年より株式会社SHIFTにてソフトウェアテスト支援ツール開発および非機能テストに従事。SHIFT SECURITY の設立に携わる。同社では脆弱性診断手法とツール開発、およびセキュリティコンサルティング業務に従事。2018年よりSHIFT SECURITY 執行役員に就任。現在に至る。

目次
    • はじめに
    • 生成AIが抱える主な倫理的課題
    • 「ガードレール」によるAIに対する倫理的制限
    • 利用者に求められる姿勢
    • まとめ

はじめに

生成AIは、私たちの創造性を拡張し、業務を効率化する強力なツールとして、もはや欠かせない存在となっています。その一方で、AIに関連した 著作権侵害、誤情報の拡散、偏見の助長といった倫理的課題が日々のニュースで取り上げられ我々の生活にも影響を与え始めています。これらの課題に対処するため、生成AIには「ガードレール」と呼ばれる技術的な安全対策が組み込まれています。
本稿では、生成AIが抱える主な倫理的課題と、それに対応するガードレールを解説するとともに、AIと共に生きる上で求められる取り組みを紹介します。

生成AIが抱える主な倫理的課題

生成AIの技術が進化するにつれて、以下のような倫理的課題が顕在化しています。

  • 倫理的課題1: 著作権と知的財産権の問題

    AIは膨大な量のデータを学習して新しいコンテンツを生成します。 その際、著作権保護された作品を学習データとして使用することがあり、生成されたコンテンツが元の作品の権利を侵害するのではないかという懸念が生じています。特に、クリエイターやアーティストからは、自身の作品が無断で学習データに使われることに対する強い反発の声が上がっています。

  • 倫理的課題2: 誤情報(フェイクニュース)の拡散

    AIは、あたかも事実であるかのように、非常に説得力のある文章や画像を生成できます。この技術が悪用されると、虚偽のニュースや偽情報が大量に生成され、社会に混乱をもたらす可能性があります。いわゆる「ディープフェイク」もこの問題の一環であり、その真偽を見抜くことはますます困難になっています。

  • 倫理的課題3: バイアス(偏見)と差別

    AIは学習データに存在する偏見をそのまま学習し、反映してしまうことがあります。例えば、特定の性別や人種、文化的背景に対して偏ったコンテンツを生成してしまうなど、差別的な結果を生み出す可能性があります。これは、社会の公平性や公正性といった基本的な価値観を揺るがす重大な課題です。

「ガードレール」によるAIに対する倫理的制限

これらの倫理的課題に対処するため、一般的な生成AI基盤には「ガードレール」が設けられています。 ガードレールは、AIの振る舞いを安全な範囲に保つための具体的な技術的・運用的な仕組みです。
ここでは代表的なガードレールのふるまいを紹介します。

  • 倫理やコンプライアンスに関する制限

    AIの出力にフィルタリングをかけることで、倫理やコンプライアンスに関する問題を低減します。 これにより、暴力や差別、性的表現、著作権に抵触するコンテンツ、差別的表現などの不適切なコンテンツが生成されることを防ぎます。

  • 悪意ある利用に対する制限

    反社会的な目的での生成AIの利用を制限します。近年、詐欺メール等に生成AIが利用される事例や、悪意あるプログラム(マルウェア)の作成に生成AIが利用されたニュースなどが報道されています。 このような「悪意ある利用」に対して生成AIが回答をしないよう、制限される場合があります。

利用者に求められる姿勢

ガードレールは生成AIが社会の中で安全に存在するために非常に重要な技術です。一方で、すべての倫理的課題がガードレールで解決できるわけではありません。ガードレールの制限は生成AI基盤毎に異なり、現状ではまだまだ課題があると言えます。また、「制限を回避する細工」(ジェイルブレイク)により期待通りに制限が機能しない場合もあります。攻撃者はその他にも様々な方法で制限を回避してきます。
このような情勢を踏まえ、私たち利用者にも以下のような重要な役割があります。

  • AI生成物のファクトチェック

    AIが生成した情報が常に正しいとは限りません。ニュースや重要な情報に接した際は、AIの出力を鵜呑みにせず、信頼できる複数の情報源で事実確認を行う習慣をつけましょう。

  • プロンプト(指示)への配慮

    AIに指示を出す際、不適切な内容や倫理に反する要求をしないように心がけましょう。ガードレールは万能ではなく、私たち自身の倫理観がAIの健全な利用を支えます。

  • AI生成物であることを明記する

    AIを利用してコンテンツを作成した際は、その旨を明記することが望ましいでしょう。これにより、他者がそのコンテンツの信頼性を判断する助けになります。

まとめ

今回取り上げた倫理的課題を克服し、健全なAI活用社会を実現するためには、ガードレールのような技術的対応だけでは困難です。現状では社会を構成する私たち一人ひとりの倫理的な姿勢が不可欠です。AIの進化と倫理的な課題は、今後も私たちの社会に問いを投げかけ続けるでしょう。その問いに対し、私たち自身がどう向き合い、行動していくかが、より良い未来を拓く鍵となります。

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